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★「日本版エグゼンプション」とは?
「エグゼンプション」とは「適用除外」ということ。何の適用を除外するのか、というと労働時間です。
現在の労働基準法では、原則として1日8時間、1週40時間以内で労働時間を設定することが義務付けられていて、これを超えて労働させる場合は、選挙などによって民主的に選出されたその事業所の過半数を代表する者、または過半数が加入する労働組合と書面を取り交わして、その事業所を管轄する労働基準監督署に届け出ることを義務付けています。これが、いわゆる「36協定」と呼ばれるものです。
そして、1日8時間、1週40時間を超えて働いた分については、残業代を25%増の割増で払うことが義務付けられています。
適用除外となった場合、この36協定なしで何時間でも(24時間でも!)働かせることが可能になり、会社は残業代の支払いも必要なくなります。
アメリカでは、当初ホワイトカラーを中心に同様の制度を立法化したことから、「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼ばれていました。今回、日本で検討されているのはアメリカをモデルにしたものですが、その内容は必ずしも「ホワイトカラー」のみを対象としたものではないことから、私たちは「日本版エグゼンプション」と呼んでいます。
★日本版エグゼンプションをめぐるこれまでの経緯
日本版エグゼンプションは「規制緩和」の大きな流れの中で出てきたものです。平成13年に当時の総合規制改革会議がまとめた中間取りまとめの中で「新しい労働者像に応じた制度改革」として「いわゆるホワイトカラー・イグゼンプションの考え方も考慮しながら制度改革を検討すべきである」とし、その後も再三、「ホワイトカラー・エグゼンプションの検討」を求めてきました。
こうした意見を反映してか、平成15年の労働基準法改正に向けて話し合いが行われていくなかで、労働契約にかかる制度全般について「今後、引き続き議論することが適当」とするとともに、アメリカのホワイトカラー・エングゼンプション等の実態を調査し「今後検討することが適当」とされていました。
このため平成15年の改正労働基準法の成立の際に、衆参両院の附帯決議で「労働契約について包括的な法律を策定するため、専門的な調査研究を行う場を設けて積極的に検討を進め、その結果に基づき、法令上の措置を含めて必要な措置を講ずること」とされました。
この附帯決議を受け、厚生労働省では学識経験者を集めて、平成16年4月に「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」(座長・菅野和夫明治大学法科大学院教授)を開催、平成17年4月に報告書の中間取りまとめ、同年9月に最終報告書を発表しました。この中間取りまとめの中で「労働者の働き方の多様化に応じた労働時間法制の在り方についても検討を行う必要がある」とされたことから、厚生労働省では別に学識経験者を集め「今後の労働時間法制に関する研究会」(座長・諏訪康雄法政大学大学院教授)を開催して検討を行い、平成18年1月に「今後の労働時間制度に関する研究会報告書」(以下「報告書」)をまとめます。
この報告書では「自律的に働き、かつ、労働時間の長短ではなく、成果や能力などにより評価されることがふさわしい労働者」が増加していると指摘。こうした労働者は「労働時間に関する規制から外されることにより、より自由で弾力的に働くこと」ができるなどとし、一定の要件のもとで労働時間の適用除外する「新しい自律的な労働時間制度」を設けることを提言したのです。この「新しい自律的な労働時間制度」が「日本版エグゼンプション」です。
政府と財界は、新しい法律としての労働契約法と合わせ、日本版エグゼンプションを盛り込んだ労働基準法の改悪案を来年の通常国会に提出することを目論んでいます。現在、公労使で構成される労働政策審議会労働条件分科会で議論が行われています。
★報告書が示した「日本版エグゼンプション」4つの要件
「日本版エグゼンプション」の要件として、報告書では、@勤務態様要件、A本人要件、B健康確保措置、C導入における労使の協議に基づく合意、の4点を示しています。今後もこの報告書で示された要件が一定のベースになってくると思われます。
以下で、それぞれの具体的な内容をみてみましょう。
@勤務態様要件
・職務遂行の手法や労働時間の配分について、使用者からの具体的な指示を受けず、かつ、自己の業務量について裁量があること
・労働時間の長短が直接的に賃金に反映されるものではなく、成果や能力などに応じて賃金が決定されていることが挙げられています。
「労働時間の長短」ではなく「成果や能力に応じて賃金が決定される」とのことですが、同程度の能力の者が複数いれば、長時間働いた者の成果が上がります。このため、周囲の人たちよりも成果を上げるために、どんどん労働時間が長くなっていく…という長時間労働のスパイラルにはまっていきます。
ましてや「成果主義」は、先行して導入した大手企業が失敗しており、成功している企業は極めて少数です。こうしたいわば「失敗している賃金制度」の広がりを基にして法律を変えるのはナンセンスです。
A本人要件
・一定水準以上の額の年収が確保されていること
・労働者本人が同意していること
が挙げられていますが、具体的な年収額などは示されませんでした。
しかし、日本経団連が昨年の6月に発表した「ホワイトカラー・エグゼンプションに関する提言」では、ホワイトカラー・エグゼンプションの対象となる業務を政令で定めるなどとしたうえで、「業務要件と賃金要件等との関連」を以下の表のようにまとめています。
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業務要件
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賃金要件
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その他
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現行の専門業務型裁量労働制の対象業務を除く裁量的業務であって法令で定めた業務
ただし、これ以外の業務であっても、※労使協定の締結又は労使委員会の決議による場合には、対象業務を追加することができるものとする。
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当該年における年収額が700万円(又は全労働者の給与所得の上位20%相当額)以上の者
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※の場合、労使協定の締結、労使委員会の決議のいずれでも追加が可能。
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当該年における年収額が400万円(又は全労働者の平均給与所得)以上700 万円(又は全労働者の給与所得の上位20%相当額)未満の者
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※の場合、労使委員会の決議による場合に限り追加が可能。
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当該年における年収額が400 万円(または全労働者の平均給与所得)未満の者については、ホワイトカラー・エグゼンプション制度を適用せず、通常の労働時間管理を行う。
*1 額はあくまでも例示であり、さらに詳細な検討が必要である。
*2 年収には、家族手当等扶養家族数によって変動する賃金、給地手当や寒冷地手当等勤務地により変動する賃金項目等もすべて含める。
ここで「年収700万円」をひとつの目安にしているのは、有料職業紹介事業で求職者から手数料を徴収できる経営管理者、科学技術者等の範囲の基準とされている額を「年収700 万円」としているからです。
しかし、一定の要件のもとで年収400万円(または全労働者の平均給与所得)以上から適用することなどとしているため、年収の要件などは、いったん導入されてしまえば将来的にはどんどん切り下げられていくことは十分に予想できます。
B健康確保措置
・実効性のある健康確保措置が講じられていること
が挙げられています。報告書では、この点について「労使による恒常的なチェックができるような仕組みを作ることも考えられる。なお、その際、衛生委員会を活用することも考えられる」としているため、労働安全衛生法の改正も視野に入れて検討されると考えられる。
しかし、衛生委員会を設置していない違法な企業も少なくないことなどから、こうした措置が正常に機能するとは考えにくいところです。
C導入における労使の協議に基づく合意
原則として「労使が話し合った上で導入を決定し、合意することを要件とすることが適当」とし、極めて高額な年収を保証されている労働者の場合は協定を不要とすることも「考えられる」としています。
残念ながら、日本には労使が対等に話し合うことができる環境を保障された会社ばかりではありません。また、会社から提案されたことに合意をしなかった人が、その後なんら不利益もなく働き続けられるような風通しのいい企業ばかりではありません。報告書をまとめた学者たちが、こうしたことが一定の「歯止め」になると考えたとすれば、あまりにも現実を知らな過ぎるといわざるを得ません。
★報告書が示した対象者の具体的イメージ
上記の@勤務態様要件、A本人要件、B健康確保措置、C導入における労使の協議に基づく合意、の要件を満たす者として、報告書では「例えば」としたうえで「中堅の幹部候補者で管理監督者の手前に位置する者」「研究開発部門のプロジェクトチームのリーダー」といった者が「対象労働者となり得ると考えられる」とし、それぞれの具体的な指標を例示しています。
<中堅の幹部候補者で管理監督者の手前に位置する者>
(1)職務遂行の手法や労働時間の配分につき、使用者からの具体的な指示を受けず、成果や能 力などに応じて賃金が決定されていること
(2)事業の運営に関する企画業務等に従事していること
(3)一定以上の職位・職階にあること、または組織がフラット化した企業においては、一定年 数以上の職務経験があること(必ずしも同一企業での勤続年数を指すものではなく、転職し た場合でも同種の職務であれば経験年数を通算することも考えられる)
(4)一定水準以上の年収が保証されていること
(5)本人が同意していること
(6)週休2日制に相当する日数の休日を実際に取得していること
(7)適切な健康確保措置が講じられていること
<研究開発部門のプロジェクトチームのリーダー>
(1)職務遂行の手法や労働時間の配分につき、使用者からの具体的な指示を受けず、成果や能 力などに応じて賃金が決定されていること
(2)その者が一定以上の技能又は技術を有しており、一定のまとまりを持った範囲の研究開発 を任されていること
(3)一定水準以上の年収が保証されていること
(4)本人が同意していること
(5)プロジェクト終了後の連続休暇等の特別の休暇が付与されていること
(6)適切な健康確保措置が講じられていること
★適用を除外される項目は?
報告書では「新しい自律的な労働時間制度」により、適用が除外される項目は、前述した労働時間に加えて休憩、さらに健康確保措置が講じられていることから深夜業に関する規定(割増賃金に関する規定等)も「適用を除外することが考えられる」としています。
ただし、労働基準法第35条で定めている週1回または4週4日の「法定休日」については「休日取得の実効性の確保を図る観点から、同制度においてはこの規定の適用を除外しない(すなわち、労働者に法定休日を与えなかったこととなる場合には法第35条違反となる。)ことも考えられる」としています。
要するに、休憩も与えないで、何時間でも、夜遅くまでも、まったく割増賃金を支払わずに働かせることを可能にしてしまうのです。こうなると、仕事と生活の区分があいまいになり、生活時間がどんどん仕事に侵食されてしまいます。
さらに、休日は確保するようなことをいっていますが、絶対に休日労働はさせてはいけないとしているわけではありませんので、24時間・365日仕事に拘束されてしまうことが可能になります。このように、昨今も止められている「仕事と生活の調和」などとは、まったく正反対に作用するものなのです。
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