WE反対行動の報告と奥谷氏への反論

 

1 反対運動の報告

 

2005年の障害者自立支援法、2006年末の教育基本法は、たいへん激しく猛烈な反対運動が繰り返して行われたにもかかわらず、残念なことに実にあっさりと通過してしまいました。

私たち過労死家族の会が『日本版ホワイトカラーイグゼンプション』の反対運動を始めた頃は、言葉の意味から説明しないと相手に話が通じないという苦労がありましたから、はたしてこんなことで阻止できるのかなぁと、若干悲観的な思いもあったことは事実です。

しかし、昨年1024日に皆様のご支援を受けて、家族の会や過労死家族が連合会長と厚生労働省に要請したことがきっかけになり、125日には日比谷野外音楽堂で、家族の会の元代表が力強いスピーチで反対意見を述べました。

 

その後、家族の会の中で独自の運動を展開しようという意見が出て、先ず、1211日に会員12名が厚労省へ行って、各人が自分の家族の過労死の事情を話し「ホワイトカラーイグゼンプションは過労死促進法です」と訴えたのです。

厚生労働省の官僚は、「週休2日相当の休日を取れるのだから、過労死の心配はない」と強弁しましたので参加者からブーイングが出たほどでした。お役人は、労働の実態を何も分かっていません。

次に、役人に文書を渡すだけでは足りないと思い、17日には労働政策審議会の分科会委員の一人ひとりに宛てて会員の訴えを全部コピーして送付しました。

1220日には、東京家族の会独自で2000枚のビラを作って、皆様のご協力も得て、昼休みの時間帯には丸の内仲通りで、その後は家族の会だけで日比谷に行って配りました。

東京だけでなく、大阪でも、名古屋でも、家族の会の会員がそれぞれ地域性のあるビラを作って大量に配ったのです。

また、要請文を各種メデイアに送って、家族の会がこの法案に絶対反対の立場とっていることを表明しました。

 

東京過労死家族の会は『必見!サラリーマンの皆様へ』というタイトルをつけ「あなたの残業代がゼロになります」というキャッチコピーで呼びかけました。中には激励してくださる通行人もいて、とても嬉しく感じたものです。

1221日と27日には労働政策審議会の分科会の傍聴に参加しました。そのときには家族の会の会員が真正面に立ったまま、前に分科会の全員に送付しておいた「要請書」のコピーのファイルを掲げ続けるというアピール活動を行いました。
 諦めず粘り強く運動をした結果、世論の高まりとともに参議院選挙前という政治的判断もあり、今回は取り敢えず法案上程を見送らせることができました。けれども、「理解が広まっていない」というのが見送りの理由ですから、まだまだけっして油断はできません。

 

2        奥谷禮子氏への反論

 

ところで、家族の会で問題になったのは、例の奥谷禮子氏の発言でした。

 

@ 「今まで8時間かけていた仕事を4時間でこなして、残り4時間は勉強に充てようとか、ボランティアをやろうとか、介護や育児に回すこともできる」  について

 

これは一見したところ特に若いサラリーマンに聞こえのよいお話のようです。

日本中の企業がこんなふうだったら、過労死なんて先ず起こらないでしょう。

ですが、現実は程遠いのです。

非常に作業能率のよい人に「あなたは並みの人の2倍量を効率的に働くから、午後はお好きなように過ごしてください」と、連日、自由勝手にさせてくれる、そんな長閑な会社が今の日本に多数存在すると、奥谷氏は本気で考えているのでしょうか?

とんでもないことで、もし8時間分を4時間でこなせる人なら、残りの4時間にまたプラス8時間分、どうかするとそれ以上の仕事まで振ってくるのが上司のやり方です。仕事は手早くやる人ほど、上手くこなせばこなすほど、際限なく増えるというのがわが国ではもはや常識です。

もし奥谷氏の言うとおりに、我もわれもとこれを実行したらどうなるでしょう。「今日は自己啓発のため」「私は家庭サービスに・・・」「自分はボランテイァに出かけます」と、有能な社員を大勢抱えている部署は、午後は職場に誰もいなくなってしまいます。

しかし、現実にはそこまで行く前に、多分、上司から「余剰人員が多すぎる」と見做され、人員削減や配置転換をされているはずです。

 

A 「過労死するのは自己管理が悪い」  について

 

一方で作業能率に問題がある人や、上司に反抗的な人など、企業にとってお荷物と考えられている人たちは、必然的にリストラの対象にされてしまいます。

そうして員数が減った場合でも、激しい企業同士の競争の中、ぎりぎりでペイする程度の条件で請け負ってきた契約ですから、残業させてでも納期やタイムリミットは絶対に守らせようとします。

その結果、リストラを免れ職場に残った人、普通の倍以上も仕事をこなす真面目で有能な人たちは、普通では到底こなせないほどの量の仕事をさせられ、有給休暇も休日出勤の代休も取れず、サービス残業などで酷使された挙句に、疲れ果てて脳や心臓の発作で命を落とすことになるのです。

でなければ、精神的に何らかの異常をきたすところまで追い詰められてしまいます。

彼らは、「午後は余暇」どころか、「睡眠時間は45時間しかとれず、体調が悪くても病院に行く時間さえもない」のです。

そうしてある日突然倒れる、それが日本の過労死・過労自殺の悲惨な実態です。

 

また、各種の業種の中には想定外のアクシデントに巻き込まれ、そのため「自由裁量」や「自己管理」とは程遠いところで仕事をさせられる人も結構います。このような職種の人がすべてブルーカラーとは限りません。

例えば、情報処理のトラブルやシステムダウンを修復せずに放置したら、今では大抵の企業の活動は完全にストップします。そんなときは休日であろうと睡眠中であろうと、担当者はすぐに駆け付けてリカバリをしなければなりません。たとえ休暇の最中でも「休暇が終わってからやりましょう」では済まないのです。

こういう業種の責任者にされたら最後、完全にフリーな時間は持てません。

昔からシステムエンジニア(SE)の定年は3035歳だと言われてきました。彼らは若くして心身ともに燃え尽き、過労死する者も多いのです。

それは、技術者の絶対数が少ないこともありますが、なまじ高度なスキルがあるため、過重に仕事の責任を背負わされている悲劇だと考えます。

彼らは健康への自己管理をやりたくてもやれない、切羽詰った状況で働かされています。

 

情報システム部でデータベースの運用・管理をしていた私の息子も、まさにこのような状況のもとで孤軍奮闘していました。人事部や直属の上司に、担当部署の異動を再三に亘って申し入れていたのですが受容れてもらえず、すごく頑丈な体格の持ち主でしたが、心臓発作を起こして倒れ、意識不明のまま13日後に両親の手の届かぬところへ逝ってしまいました。享年26歳でした。

 

何を根拠にして言われた言葉か分かりませんが、奥谷氏の発言はあまりにも理不尽です。苦労しながらも、真面目に一生懸命努力して働いている一般の労働者に対して、また、不幸のどん底に突き落とされた過労死遺族に対して、非常に失礼な言葉だと思います。

 

B 「格差論は甘えです」  について

 

奥谷氏がメンバーの一員となって進めてきた『規制改革』は、企業や使用者にとって利益誘導型のものでした。コストダウン、使い勝手の良さ等のため、低賃金の非正規労働者を増やし続けて、巨大企業は史上空前の利益を上げています。違法就業等で法に触れ、行政から指導が入ると、法そのものまで変えてしまおうとする「規制緩和」という方法で、一般の労働者を犠牲にして・・・。

 

「グローバル化」・「国際競争に勝ち抜くために・・・」をお題目に、経営者は費用対効果で分の悪い正規労働者を大幅に減らし、代わりに派遣、偽装請負、パート、アルバイト等の非正社員を増やして最低の賃金で雇ってきました。

彼らの低賃金が更なる低賃金を招いて、生活保護家庭よりもひどい処遇で我慢させられながら働く人が増える、という悪循環を作ってきました。

その結果、社会に経済格差は大きく広がり、若者が将来に希望を持てない状況を作ってきた、その推進論者の一人である人が、「格差論は甘えです」とはどういうことでしょう。

そもそも、少子化問題も、将来の年金破綻の不安等も、元はといえば度重なる「行き過ぎた規制緩和」に起因していたはずです。

 

(まだまだ、奥谷氏の問題発言はきりがないほど続きますが、これら全部に反論していますと明日までかかってしまいますので、心残りですがこの辺で止めておきます)

 

3 終わりに

 

過労死の遺族は、日本版ホワイトカラーイグゼンプションに強く反対してきました。それは、これ以上私たちのような悲惨な家族を増やして欲しくなかったからでした。しかし、残念なことに過労死・過労自殺は、減るどころか年々増え続けています。

「過労死するほど働かされる正社員とワーキング・プア」、どちらも日本の現実ですが、私たち過労死の遺族でなくてもこんな状況は悲惨すぎると思いませんか。

 

労働の『規制緩和』ではなく、逆に「非正社員の占める割合は全社員の10%以内に限る。希望する者には安定的長期雇用を。8時間労働を厳守し職場からサービス残業を追放する。」という、厳しい『規制強化』を、私はお願いしたいと思います。

 

東京過労死を考える家族の会 木地 節子